経緯 その八 農音 [プロローグ]
時は前後して2013年1月。
通勤途中、ラッシュのJR立川駅で僕は電車を待っていた。
疲れていた。
仕事場には何一つ僕の能力を発揮できる環境はなく
生活のために
ただただ大学と自宅を往復する毎日。
安定はしていた。
休みも多かった。
会社に不満はなかった。
だが発展性のない毎日の職務は
少しづつ、少しづつ僕を蝕み
行き場の無いやるせなさを無限に増幅させた。
ある種、
無意識に
「移住、家族、離島」
などという言葉をグーグルに打ち込んでいた。
うつろな目でiphoneを見ているとそこに
「農業と音楽で地域を結ぶNPO」
のコピー。
ああ、こんな島があってこんな人たちが
こんな活動をしているのか。
風景も心の中も灰色に染まり
半ば夢を見るような感じで僕は思った。
ああ、こんな生き方もあるのか。
これが今回、愛媛中島への移住のきっかけとなった
農音と僕との出遭いだった。
キャリー [島暮らし]
むかし、むかし その昔 [島暮らし]
先々月、家族みんなで知人の畑のミカンをもぎにいく。
これが楽しいのですよ。
ミカンをもぐ時は
「二度切り」といって果実を傷つけないように
枝から1cm~2cm離して切った後に
もう一度ぎりぎりのところで切ります。
その時にまれにミカンの小さな葉っぱが
果実についたままの時があります。
僕の行っていた小学校では
こういった葉っぱのついているミカンは
「当たり」
と言って羨ましがられました。
それが、こうやってミカンをもいでいる作業の途中で
できることを体験できると
日本のどこかの小学校で
「当たり」
と言って喜ぶ子供がいるのかな、などと思ってしまいます。
ミカンは結構高い枝にも生っていて
背の届かないところは
木に登って収穫します。
手伝いに行って二日目。
この日は高い場所に前日残したミカンを
主に収穫していました。
ミカンの木はディズニー映画にでてくるような
「しゃべる木」のように表情豊かな枝ぶりで
木に登るとその形状から
大きくたわみます。
その木に登って、
しなる枝と自分の体重を比較しながら
上に上ってミカンをもぎます。
作業の途中喉が渇くとミカンを剥いて食べます。
すると、
200万年以上前まだ人類がアウストラロピテクスだったころ、
猿だか人間だがわからなかったころの記憶が蘇る
というと大げさな感じですが
そんな錯覚がありました。
たわむ枝に乗りながら夢中で果実をもぎ
ところどころ、枝の合間から差し込む日の光を
見ていると
「あっ、俺 むかし、むかし猿だった」
なんてフラッシュバックがあるのです(笑)